ラントマンの雑貨やアンティーク買い付け時の、フランスレポート。
蚤の市便り vol.08 2004.5.8
万年筆のすすめ
 みなさんは字を書くとき何をお使いですか?鉛筆やシャープペンシル、ボールペン、マジックなどいろいろありますが万年筆を常時身に付けて使うというかたはそういらっしゃらないかもしれません。

 かつて日本では筆が筆記の主流だったのと同じようにフランス(ヨーロッパと言っていいかもしれません)では万年筆を誰もが使っていた時代がありました。 そのころはインクもカートリッジなどではなく、インクつぼにペン先を浸しながら書いていくつけペンでした。

  フランスで骨董商やブキニスト(古書店)を覗くと、すべて万年筆で書かれたすばらしい記録書に出会うことがあります。“書記官のノート”骨董屋の店主はそう呼んでいましたが、手漉きの美しい紙を麻糸で綴じた細長いノートに、深いブルーのインクで膨大な量の記録文が記された法定記録書のようなものを見たことがあります。150年以上前の日付がありました。綴じた紙の端は漉いたときのままの自然な曲線が残っていました。マス目もラインもない真っ白な紙にただ1文字のミスも見当たらない完璧なフランス語の流れるような筆記体は、整然としているのに優雅で、音楽の旋律のように美しいのです。

 万年筆の残すラインは筆圧の加減とペン先の形によって太さが変わります。毛筆に似ています。書く人の息づかいや姿勢がそのまま現れるのでそれぞれに魅力があります。

 ずっと以前、フランスの家庭にホームステイで住んでいた頃、小学生の男の子がペンケースにプラスチックのかわいい万年筆と修正液の瓶をいつも入れていたことに新鮮な驚きを覚えたのを思い出します。今ではボールペンやシャープペンシルでノートすることが主流ですが、日本で言うお習字のように万年筆で文字を書く授業があると聞きました。
 「インクで右手の中指の腹がブルーに染まっちゃうし、間違ったら白い修正液で直さなきゃならないし面倒なんだ」と彼は口をとがらせていましたが、私はインクのしみだらけの彼のノートに触発されてそのころから万年筆を身につけ使うことを始めました。マジックやボールペンにはないインクの触感や書いている感じはちょっとだけ豊かな気持ちになれます。少し字がうまくなったような錯覚もしたりして。フランスでは小学生用のプラスチックボディの万年筆が、スーパーにたくさん並んでいます。安いものですが、しっかり使えて色やデザインも楽しいものが豊富です。

 どうでしょう、あまり気負わずペンを1種類増やすつもりで万年筆を使ってみませんか?きっと小さな発見があると思います。そのうちに吸い取り紙を買ってきて横に置き、便せんに万年筆で手紙を書けるようになったら、素敵だと思いませんか?(Y)
※画像はフランスの古い万年筆のペン先とその箱
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